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プロジェクトマネジメント

「答えを出すリーダー」から「問いを開くリーダー」へ——シェアード×オーセンティック×起承転結

伊達 渡伊達 渡

「これで行こう」。

トップの決定が、伝言ゲームのように現場へ降りていく。途中で意図は少しずつ削れ、現場が違和感に気づいても、その声が上まで戻るころには手遅れになっている——。そして責任はいつも、いちばん上の“あの人”がひとりで背負っています。長いあいだ、これが組織の「あたりまえ」でした。

この記事では、この「あたりまえ」が通用しなくなったあとに必要となる、新しいリーダーシップの話を書きます。キーワードは「問いを開く」。それを支えるのが、シェアード・リーダーシップとオーセンティック・リーダーシップという二つの理論と、私が研究を続けている起承転結人材モデルの掛け算です。

前回、竹林一氏が提唱する起承転結人材モデルを“一人の中”に適用する話を書きました(→ 起承転結人材モデルを「個人」に適用する)。起・承・転・結の4タイプが、バトンリレーのように価値をつないでいく——そこまで書いて、ひとつの問いが残っていたのです。バトンが途中で落ちそうになった瞬間、誰が、どのように立て直すのか。私の答えは「リーダーシップ」にあります。この記事はその続編です。

課題が「明確」から「不定」になった

前回も参照した、オムロン創業者・立石一真氏が1970年に発表した未来予測理論「SINIC理論」に、もう一度立ち返ります。この理論では、効率と合理を追う「最適化社会」が終わり、2025年からは個人・組織・システムが自律して新しい価値を生み出す「自律社会」に入るとされています。

最適化社会までは、課題はおおむね明確でした。だから組織は中央集権的なピラミッド構造をとり、そこで機能したのは「答えを出すリーダー」です。トップが最短の正解を特定し、現場は一糸乱れず実行に移す。スピードと正確さが競争力を決める時代には、これが最強のかたちでした。

ところが自律社会では、課題そのものが複雑化・不定形化し、輪郭すら見えにくくなります。正解はひとつに定まらず、トライ&エラーで進め方を変え続けるしかない。すると、方向転換のたびに伝言ゲームをやり直すトップダウン型の組織では、変化に追従できなくなります。だから組織構造は、階層型から自律分散型へ——一人ひとりが自律的に考え、責任を分担しながら、変化にいち早く対応するかたちへ変わっていきます。

ここで問題になるのが、リーダーの役割です。課題が「不定」になった世界では、「答えを出すリーダー」は構造的に機能しなくなるのです。

「問いを開くリーダー」——求められる力は二つ

では、自律社会のリーダーには何が求められるのか。私は講演で、これを「問いを開くリーダー」と呼びました。メンバーと問いを共有し、関係性を紡ぎながら、解をともに探るリーダーです。ポイントは二つあります。

ひとつは問いを立てる力。「何が本当の問題か」を、チーム全員の視界に浮かび上がらせる力です。正解を提示する代わりに、まだ言語化されていない本質を可視化し、チーム全体を探究モードへ導きます。

もうひとつは場を編む力。多様な専門性を絡み合わせ、対話を促進し、起・承・転・結のバトンを滞りなく回す力です。

まとめると、従来の「指示と管理」に代わって、「問いと関係性」がリーダーシップのコアに置き換わる。リーダーに求められるのは、「問いを開き、人と場の可能性を引き出す力」——これが、この記事でいちばん伝えたいことです。

二つのレンズ——シェアードとオーセンティック

この力を発揮する鍵として、私は二つのリーダーシップ理論をレンズにしています。

ひとつめはシェアード・リーダーシップ。リーダーシップを役職者ひとりに固定せず、チーム全員で分かち合う考え方です(2000年代に経営学で体系化が進んだ理論で、ペアース&コンガーらの研究で知られます)。状況に応じて誰もがリーダーシップを発揮する権利と責任を持ち、主導権を自然に受け渡していく。リーダーは“役職”ではなく“場”の中で生まれる、という捉え方です。

ふたつめはオーセンティック・リーダーシップ。自分の価値観・想い・経験から湧き上がる“本物の自分らしさ”で導くスタイルです(元メドトロニックCEOビル・ジョージ氏の著書などをきっかけに広まりました)。自分自身の「Why(なぜこれをするのか)」を率直に語ることで、メンバーの共感と信頼を引き出し、挑戦に向かう心理的安全性を醸成します。

大事なのは、この二つを「どちらが正しいか」で選ばないことです。補完関係として行き来させる。いまは全員でボールを回すシェアードが有効か、それとも自分の信念を旗印に流れを変えるオーセンティックが必要か——場の状況を読んで柔軟に切り替えることが、自律社会のリーダーの要諦だと私は考えています。

起承転結に重ねると、リズムが見えてくる

ここで、前回の起承転結人材モデルと接続します。起・承・転・結の各フェーズは、実は求められるリーダーシップの質まで入れ替わるのです。

「起」はオーセンティック。リーダー自らの価値観を鮮明に語り、「なぜ挑戦するのか」というビジョンの火種を灯します。ここでは率直な自己開示が欠かせません。

「承」はシェアード。火が点いたら、問いを共有しながら仲間を巻き込む段階へ。関係性に働きかける協働と巻き込みの伝道者として、リーダーシップをチームで分け合うことが場のエネルギーを最大化します。

「転」もシェアード。共感で膨らんだ物語を現実の戦略へ落とし込むため、数値や制約を提示しながら場を動かし、気づきを与える役回りです。

「結」は再びオーセンティック。学習ループを回し切り、成果を結晶化させるには、内発的な責任感でやり抜く姿勢——結果責任を自覚し、周囲を支えるリーダーシップが要ります。

火を点け、場を回し、最後に責任を背負う。
起・結はオーセンティック(自己起点)、承・転はシェアード(関係性)。

お気づきかもしれませんが、これは前回書いた「カメレオン」と同じ構図です。役割だけでなく、リーダーシップの発揮スタイルも、場面に応じて切り替える。しかも自律分散型の組織では、それを一人が抱え込む必要はありません。各フェーズを得意とする複数のリーダーシップが同時多発的に立ち上がり、局面に応じて主導権を受け渡していく——このリズムが、バトンリレーを滞らせず、イノベーションを連鎖させます。

正直に言うと、ここも探求の途中です

前回と同じ言葉を、今回も書いておきます。これは完成した方法論ではなく、現在進行中の研究ノートです。

起承転結人材モデルとリーダーシップ理論との連携強化、そのほかの理論との体系化は、講演でも「今後の展望」として掲げた、まさにこれからの研究テーマです。さらにその先には、SINIC理論が自律社会の次に置く「自然社会」で、リーダーシップはどうあるべきかという問いも待っています。未完成でも、現場で試し、声を聞き、磨き続けている——その過程ごとお見せするのが、この研究ノートの流儀です。

なぜ、これが「やる気100%な開発者集団」につながるのか

以前、プロジェクトはPMの「熱量」で決まるという記事を書きました(→ “管理するPM”から、自律を引き出す“ソース”へ)。“管理するPM”をやめて、メンバーの自律を引き出す存在になる——今回の「問いを開くリーダー」は、その転換を現場でどう振る舞いに落とすか、という答えのひとつだと捉えています。

問いが開かれ、誰もがリーダーシップを発揮できる場では、メンバーは指示を待ちません。全員が主体者意識を持ち、自分の得意なフェーズでバトンを取りにいく。それは、一人ひとりが自分の意思で動く「やる気100%な開発者集団」(→ 私がこの旗を掲げる理由)の姿、そのものです。

未来のプロジェクトマネジメントは、一人のリーダーではなく、
全員が役割と意思を持って進める「共創型のマネジメント」へ。

「答えを出すリーダー」の時代が終わることは、リーダーが不要になることではありません。むしろ、誰もがリーダーになれる場をつくる、新しいリーダーの仕事が始まる——私はそう考えて、この探求を続けていきます。

伊達 渡
ともフロー研究所 所長
伊達 渡

製造業で20年以上、開発からプロセス改善・PLM導入・業務DXを推進してきた、研究する実務家。PMI関西ブランチ 運営委員会 代表/PM創生研究会 副代表。

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