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「やる気100%な開発者集団」とは何か——私がこの旗を掲げる理由

伊達 渡伊達 渡

ともフロー研究所のミッションは「やる気100%な開発者集団を創る」。

これは耳ざわりのいいスローガンではありません。開発の現場で20年近くかけて検証してきた、ひとつの仮説です。

成果は、能力でもスキルでもなく「やる気」で決まる

かつて私は、こんな式を立てました。

成果 = 能力 × スキル × やる気

能力もスキルも、上げる「打ち手」はたくさんあります。教育、採用、資格、ツール——選択肢は豊富です。ところが、「やる気」を上げる打ち手だけが驚くほど少ない。多くの組織が、いちばん効くこの変数を手つかずのまま放置しています。

掛け算ですから、やる気がゼロに近づけば、どれだけ能力やスキルが高くても成果はゼロに近づく。いちばん効くのに、いちばん手が打たれていない——だから私は、開発者を支える立場として、ここに張ると決めました。

私は「やる気」を、感情ではなく理論で捉えてきた

「やる気」と言うと、精神論や気合いの話に聞こえるかもしれません。でも私は逆に、この曖昧な言葉をできるだけ論理的に掴もうとしてきました。モチベーションに関する理論や論文を読み込み、現場のヒアリングと突き合わせてきたのです。

たとえばマクレガーのY理論は、「人は本来、進んで働き、責任を負おうとする存在だ」と捉えます。だとすれば、管理で締めつけるより、その性質が出てくるようにする方が理にかなう。ハーズバーグの二要因理論は、もっと実務的です。人の「不満を生む要因(衛生要因)」と「やる気を生む要因(動機づけ要因)」は別物だ、という考え方。これは後で述べる私の打ち手と、見事に重なりました。

やる気は、感情で煽るものではなく、構造で理解し、設計できるもの。これが私の出発点です。

時代が変わっても、仕事をするのは「人」

技術は猛烈に進化し、新しい発見が次々生まれます。それでも、ひとつだけ変わらないことがある。仕事をするのが人である限り、やる気が成果を左右するという事実は普遍だということです。流行りの手法や道具は移り変わっても、ここだけは古びない。だから私は、腰を据えてここに取り組んできました。

「忙しい」とは、心を亡くすこと

現場のやる気は、なぜ下がるのか。——正直に言えば、私自身、やる気が下がることは何度もあります。だからこれは、誰か他人の問題ではありません。私は自分自身の声も含め、「人はいつ、やる気をなくすのか?」という生の声を集め、原因を探りました。ソフト開発者への不満ヒアリング(768件)や、重大クレームの改善アイデア(144件)も、その一部です。

見えてきた最大の阻害要因は、ひと言「忙しい」。ただ、ここに私なりの解釈があります。「忙しい」という字は、心を亡くすと書く。つまり「忙しい」とは時間が足りない状態ではなく、心=やる気を亡くしている状態なのです。実際、何もしていなくても忙しいと感じる時はあるでしょう。

時間は、誰にでも平等に与えられています。だから問題は時間の「量」ではない。私はここで、二つの時間を意識しています。クロノス(誰にでも等しく流れる、量の時間)と、カイロス(我を忘れて没頭する、質の時間)。やる気とは、いかにこのカイロスの時間を生み出せるかだと考えています。

そして人は、好きなことには自然と没頭する。やっかいなのは、「好き」は人それぞれだということ。だからこそ、画一的なやり方では、やる気は引き出せないのです。

やる気は、他人に上げてもらえない。でも「環境」はつくれる

ここに、私のいちばん大事な考えがあります。

やる気は、他人からもらうものではありません。自分で上げるしかない。 けれど——やる気が自然と出てくる「環境」なら、つくり出すことができる。

私の仕事は、人を奮い立たせることではありません。一人ひとりが自分のカイロスを見つけ、前に進みたくなる流れをデザインすること。屋号「ともフロー(共に流れをつくる)」は、ここから来ています。

打ち手は、サイロを超えて「流れ」をつくる

「忙しい」の正体が「他部門の理解不足」だと書きました。その奥にあるのは、組織の「サイロ化」です。組織が大きくなるほど目標は細かく分けられ、全体が見えなくなる。自分の仕事が、最終的に誰の・社会の何の役に立っているのか実感できない——これが、静かにやる気を奪っていました。企画との間に壁を感じ、顧客のためではなく隣の部門のために手を動かしている。そんな状態です。

だから私は「共に流れをつくる」ことにこだわります。具体的に言えば——今ある手続きを、全体(=とも)で見直し、フロー効率を上げること。

打ち手は二つあります。ひとつは、自分・チームが“納得できる”プロセスを、共につくり上げること。押し付けられたルールは不満(衛生要因)になりますが、自分たちで納得してつくった手順は、その不満を消します。もうひとつは、「全体」と「個」を見える化し、流れをつくること。全体の中で自分の仕事がどこにつながっているかが見えると、意味が戻り、やる気(動機づけ要因)が生まれます。ハーズバーグが言うように、不満を消すだけでは足りず、この両輪が要るのです。

私のプロセス改善は、いつも「手順・教育・ツール」の三点セットで考えます。仕組みだけ、教育だけ、では変わらないからです。さらにもうひとつ大事にしているのが、TOC(制約理論)の発想です。部分ごとの最適ではなく全体最適で捉え、どこがボトルネック(希少リソース)かを見極める。そこに集中し、みんなで助け合う——それが、全体の流れをいちばん速くする近道だと考えています。

自律を育てる、3つの考え方

環境づくりの先で私が目指すのは、指示待ちではない「自律」です。自律は精神論ではなく、育て方があります。私は3つの軸で考えています。

① 参考モデルは「親父の背中」——号令ではなく、まず自分がやって見せる。子が親の背中を見て育つように、人は語られた正論より、目の前の実践から学びます。かつて私は「まずは自分が発信源になる」ことから始めました。自分の仕事の状況をホワイトボードに書いて共有しただけ。すると、他のグループも、誰に言われるでもなく自発的に情報を共有し始めたのです。背中を見せることが、連鎖を生みました。

② 現状把握は「守破離」——自律は0か100かではありません。型を守る段階(守)、型を破る段階(破)、型を離れる段階(離)。相手が今どこにいるかを見極めて、教育の目標を変える。私が現場で開発者の力量を段階で定義してきたのも、同じ発想です。

③ 育成方法は「考えさせる手順書」——手順書は普通、思考停止を生みます。でも私のつくる手順書は、唯一の正解ではなく、テーラリング(現場に合わせた調整)と改善を前提にしています。守破離でいえば、手順は「守」の足場にすぎない。最後は手順から解放されることこそ、本当の意味でのプロになることだと考えています。この発想は、成人発達理論や、ティーチングからコーチングへ(教える→引き出す)の行き来の中から生まれました。

なぜ「個人」ではなく「集団」なのか

優れた個人がいることは、もちろん大切です。ただ、私が見ているのはその先——人のやる気は、本来「つながり」の中で生まれ、保たれるということです。

人は社会的な生き物です。自分の仕事が誰かとつながっている、誰かの役に立っていると感じられるとき、やる気は自然と湧いてくる。逆に、そのつながりが切れた状態こそが、先に述べた「サイロ化」であり、モチベーションが静かに下がっていく入り口でした。だから「やる気」は、個人の内側だけで完結させられないのです。

私が拠りどころにしている考えのひとつに、ソース理論があります。ものごとは、たった一人の「源(ソース)」の小さな発信から動き出し、それが次の人へ、チームへ、組織へと連鎖していく、という見方です。あのホワイトボードは、まさにその小さな一例でした。一人の「発信源」になることが、連鎖の最初の一歩になる。

個人 → チーム → 組織。この連鎖が広がっていく先に立ち上がるのが、「やる気100%な開発者集団」です。

AI時代だからこそ、この旗を掲げる

いま、生成AIが仕事のかたちを大きく変えています。見方を変えれば、AIは私たちからクロノス(作業の時間)を解放してくれる存在です。問われるのは、空いた時間をカイロス——没頭と探求に使えるかどうか。

私は今、「AIの時代だからこそ、人が無意識にやってしまう“自己編集”や“早すぎる整理”を見つめ直し、探求欲を取り戻すワーク」を探求しています。まだ試行錯誤の途中ですが、作業をAIに任せられる時代ほど、「何を面白いと感じ、何を探りたいか」という人間のやる気が決定的な差になる——その確信だけは強まっています。「仕事をするのは人である限り普遍」。あの言葉は、AI時代にますます重みを増しています。

だから、この旗を掲げる

やる気100%な開発者集団は、理想論に聞こえるかもしれません。でも私は、これを根性論で終わらせたくない。理論で捉え、現場で検証し、「再現できる方法」にしていきたい。あきらめずにプロセス改革と教育を進め、個人からチーム、組織へと連鎖を広げていく。

それが、ともフロー研究所の仕事です。

伊達 渡
ともフロー研究所 所長
伊達 渡

製造業で20年以上、開発からプロセス改善・PLM導入・業務DXを推進してきた、研究する実務家。PMI関西ブランチ 運営委員会 代表。

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