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人材育成・組織変革

起承転結人材モデルを「個人」に適用する——「転」に偏っていた私が、カメレオンになるまで

伊達 渡伊達 渡

「あなたは、起・承・転・結のどのタイプですか?」

人を4つのタイプに分けるこの問いを、研修やチームビルディングで見かけたことがあるかもしれません。でも私は、ここで話を終わらせたくないのです。「自分は○○タイプだ」とわかった瞬間に満足してしまうと、いちばん面白いところを見逃してしまう——そう感じてきました。

この記事で書きたいのは、起承転結人材モデルを「チームに4タイプをそろえる」という定番の使い方から一歩進めて、“一人の人間の中”にどう活かすかという角度です。私はこれを「個人適用」と呼び、いまも研究と実践を続けています。

起承転結人材モデルとは(竹林一氏が提唱)

まず、出典をはっきりさせます。この「起承転結」で人材を捉える考え方は、オムロンの竹林一(たけばやし・はじめ)氏が2013年ごろから提唱してきたものです(著書『たった1人からはじめるイノベーション入門』日本実業出版社, 2022)。私はこのモデルの提唱者ではありません。それを“一人の中”に適用する角度から、実践と研究を重ねている一人です。ここは取り違えのないよう、敬意をこめて先に申し上げておきます。

竹林さんは、イノベーションを実現するために必要な人材を、次の4タイプに整理しています。

=0から1を生み出す、アーティスト的な人材/=そのアイデアを受けて、グランドデザイン(新しい世界観)を描く人材/=1をn倍に広げ、効率化し、リスクを最小化する人材/=仕組みをオペレーションとして回し続ける人材。

竹林さんはさらに、これに「個人のEQ・組織のEQ」を重ね、自分の弱みを補ってくれるナンバー2を置くことで、組織全体のバランスを取る——と説きます。実際ご自身も、EQ分析で「感情的被共感性」だけが低かったと正直に明かし、そこをナンバー2に補ってもらった、というエピソードを書かれています。

私がこの考え方に出会ったのは、PM創生研究会などのイベントの場でした。竹林さんとは直接お話ししたこともあります——といっても数回お会いした程度で、親しい間柄というわけではありません。それでも、ご本人の語りと著書は、私がずっと抱えていた人材育成の問題意識に、はっきりと火をつけてくれました。

定番の使い方は「チームに4タイプをそろえる」

このモデルが語られるとき、文脈はたいてい組織・チームです。「起ばかり集めても形にならない」「結ばかりでは新しいものが生まれない」——だから4タイプをバランスよくそろえよう、という使い方ですね。これはとても理にかなっています。

ただ、現場で開発者やチームを支えるうちに、私の中ではひとつの問いが消えなくなっていきました。——この4タイプは、本当に「チームにそろえるため」だけのものだろうか? と。

なぜ今「個人」なのか——自律社会では、PMが「転結」に偏っていられない

私がこの問いにこだわるのには、時代の背景があります。

オムロンが提唱する未来予測「SINIC理論」では、私たちはいま、効率と合理を追う「最適化社会」から、一人ひとりが自律して新しい価値を生み出す「自律社会」へ移ろうとしている、とされます。自律社会のプロジェクトは、「自明な課題に最適解を出す」のではなく、「多様な視点から課題を発見し、イノベーティブに解決する」ものへ変わる。組織も、階層型から自律分散型へ。マネジメントも「指示命令」から「全員の共感」へ——。

この変化のなかで、私は現場のプロジェクトマネージャーを見ていて、ひとつの偏りに気づきました。プロマネには「転」と「結」のタイプが多いのです。すでにある計画を回し、リスクをつぶし、やりぬく——その力は強い。けれど、自分で問いを立てて新しい価値を生む「起」、それを構想にまとめる「承」のイノベーティブな動きが、どうしても弱くなりがちでした。

近年、PMに求められる範囲はビジネスアナリシス(BA)の領域にまで広がっています。「起・承」の力が要る。でも現場の声はいつも同じでした——「マインドチェンジの仕方がわからない」。スキル研修を足しても、ここは越えられなかったのです。

だから私は、起承転結を「育成の軸」と「個人モデル」にした

そこで私は、起承転結人材モデルを「チームに4タイプをそろえる」のとは別の使い方へ展開しました。

ひとつは、起承転結を“人材育成の軸”そのものにすること。リスキリングを「スキルを足す」発想ではなく、「起の力を育てる」「承の力を育てる」というフェーズ別の切り口で設計する。私はこれを「起承転結別育成」と呼んで考案しました。

もうひとつは、起承転結を“一人の中”に持ち込む「個人モデル」として捉え直すこと。チームで4人が分担するのではなく、一人の人間が、場面に応じて起にも承にも転にも結にもなる。私はこの「個人モデル」を世に広めようと、ワークショップまで作りました(後述します)。

そのキーワードが、講演でも使った「カメレオンになる」です。起承転結の4タイプの特性を理解し、状況に合わせて自分の色を変えられるようになる。そのとき、人の中にリスキリングが生まれる——これが私の考えです。

自分でも試した——「転」に偏っていた私が、カメレオンになる

人に勧める前に、まず自分で試しました。

正直に言うと、私はもともと「転」の要素が強い人間です。すでにあるものをレビューし、磨き、効率化し、リスクをつぶしていく——そういう仕事は得意でした。逆に言えば、0から1を生む「起」や、新しい世界観を描く「承」は、自分の得意領域ではなかったのです。

ところが、起承転結を「いま自分はどのフェーズを使うべきか」という視点で意識して実践してみると、変化が起きました。得意な「転」だけに閉じこもるのではなく、起・承・転・結のどれも、場面に応じて演じ分けて実行できるようになってきたのです。タイプとは「いまの傾向」であって、「一生の檻」ではなかった。これが、私が身をもって確かめた一番の発見でした。

たとえば、プロジェクトのニーズ・シーズ分析のように、局面ごとに求められる役割は変わります。「いまは新しい種を探す“起”の場面だ」「ここは仕組みに落とす“結”の場面だ」——そう意識して、自分のモードを切り替える。これができると、一人でも、プロジェクトの流れに合わせてしなやかに動けるようになります。

ワークショップにして、みんなで体感できるようにした

この「個人モデル」を、私は一人の頭のなかだけで終わらせたくありませんでした。そこで、起承転結を体感できるワークショップを設計しました。

肝は、起承転結の4タイプそれぞれの力(発想・概念化・巻き込み・分析・貫徹・観察…)を引き出す「考え方カード」です。カードを手がかりに、多視点で見る → 共感する → 意味づけする → 試してみるという流れで、チームでアウトカムまで持っていく。あえて「みんなが似たアイデアに収束しない」仕掛けも入れています。

実際に「あたらしい公園をデザインする」というお題でやってみたところ、「デジタルツインの公園」「“生き物”図鑑を集める公園」「“作曲”できる公園」といった、ひとりでは出てこないアイデアが生まれました。考え方カードを使うことで、自分に足りない起承転結のコンピテンシーを補い、スキルとして強化できる——それが狙いです。

正直に言うと、まだ“研究ノート”です

このワークショップには、手応えと、宿題の両方がありました

参加者からは「PMにも“起のクリエイター”“承のリーダー”の要素が要ると理解できた」「自分は新しいアイデアを出すのが苦手だと気づけた」という声が上がりました。「起・承」への理解は、たしかに深まったのです。その一方で、「お題(公園づくり)と起承転結が結びつきにくく、存在意義が薄く感じた」という率直な指摘もありました。とくに「転・結」が場面と結びつきにくい。ここは、いままさに改善している最中です。

だから私は、これを完成した方法論としてではなく、現在進行中の研究ノートとして正直にお見せしています。未完成でも、現場で試し、声を聞き、磨き続けている——その過程こそが価値だと考えているからです。

なぜ、これが「やる気100%な開発者集団」につながるのか

私のミッションは「やる気100%な開発者集団を創る」ことです(→ 「やる気100%な開発者集団」とは何か)。

起承転結の個人適用は、その自律の部分を支えます。自分がいまどのフェーズにいて、何が得意で、どのフェーズを意識して演じ分けるべきか——それを自覚できる人は、指示待ちにならず、自分でやる気の出る動き方をデザインできる。一人ひとりがそうなり、互いの起・承・転・結を補い合えるチームは、竹林さんの言う「個人のEQ」と「組織のEQ」がかみ合った状態に近づきます。

個人 → チーム → 組織。一人の中で起承転結を育て、それをつなげていく。

その先に立ち上がるのが、私の掲げる「やる気100%な開発者集団」です。一人の中の起承転結を育てることは、けっして個人の話で終わりません。それは、変化の時代をしなやかに生き抜くチームの土台になると、私は考えています。

伊達 渡
ともフロー研究所 所長
伊達 渡

製造業で20年以上、開発からプロセス改善・PLM導入・業務DXを推進してきた、研究する実務家。PMI関西ブランチ 運営委員会 代表/PM創生研究会 副代表。

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