「PMがやる気に満ち溢れていないと、そのプロジェクトは終わる」。
長くプロジェクトに関わるなかで、私がたどり着いた確信です。PMの仕事は進捗を「管理」することだ——そう思っていた頃の自分に、いちばん伝えたいことを書きます。
気概のあるリーダーと、気概の見えない現場
新入社員の頃、私はいくつものチームに身を置き、たくさんのリーダーを間近で見てきました。そこで、はっきりと感じたことがあります。
リーダーの「気概」が見える現場では、不思議と自分も「頑張ろう」という気持ちになる。この人がここまで本気なら、自分もやろう——そう思える。チームに熱が伝播していくのです。
ところが、リーダーの気概が見えない現場は、まるで逆でした。誰もが逃げ腰になり、責任を取りたがらない。プロジェクトはまったく進まず、やがてメンバー同士のいがみ合いまで生まれてしまう。同じような能力の人が集まっていても、です。
この対照的な体験から、私は一つの覚悟を決めました。どんな状況であっても、自分は熱意を持ってプロジェクトに臨む。それ以来、PMとして現場に立つときの、変わらない芯になっています。
PMは「管理者」ではなく、「ソース」である
なぜ、PMの熱量がそこまで決定的なのか。その答えを、私は「ソース原理(Source Principle)」という考え方に見つけました。ピーター・カーニッツ(Peter Koenig)が提唱し、トム・ニクソンの著書『すべては1人から始まる(Work with Source)』で広く知られるようになった理論です。
ソース原理では、あるアイデアを実現するために最初の一歩を踏み出した人を「ソース(源)」と呼びます。そして、そのソースの周りには「クリエイティブフィールド」——創造のエネルギーが満ちた“場”——が生まれる。人は、このフィールドに引き寄せられ、自分の役割を見つけて動き出します。
プロジェクトに置き換えれば、PMこそが、そのプロジェクトの「ソース」です。PMが本気で「これを実現したい」と熱を放っているからこそ、場にエネルギーが宿り、人が自律的に動き出す。逆に、PMが熱を失えば、場のエネルギーそのものが消える。新人時代に見た「気概の見えない現場」は、まさにソースが熱を失った状態だったのだと、今ならわかります。
PMの熱量 → クリエイティブフィールドが生まれる → 人が自律的に動き出す → 反発する人すら巻き込まれる →「やる気100%な集団」へ
なぜ「管理」では、人は動かないのか
多くのPMは、進捗を細かく管理すればプロジェクトは前に進む、と考えます。しかし「管理(統制)」は、たいてい“不安”から生まれている。そして不安は、驚くほど周囲に伝染します。
管理されればされるほど、人は受け身になります。「指示されたことだけやればいい」「失敗したら怒られる」——そう感じた瞬間、当事者意識は消え、指示待ちが始まる。これは、私が別の記事で書いた「やる気は他人に上げてもらえない。でも“環境”はつくれる」という話の、プロジェクト版です(→ 「やる気100%な開発者集団」とは何か)。
熱意あるソースがつくる“場”では、細かく指示しなくても、人は自分で考えて動き出す。PMがやるべきは、人を管理することではなく、人が自律的に動きたくなる“場”をつくることなのです。
世界標準も、「統制」から「自律」へ向かっている
これは私の信念であると同時に、プロジェクトマネジメントの世界標準が、いままさに向かっている方向でもあります。
2025年に登場した『PMBOK®ガイド』第8版は、プロジェクトマネジメントを単なるプロセスや手法の集合ではなく、一つの「マインドセット」として捉え直しました。そして、そのマインドセットの核を、6つの原理・原則で示しています。
① ホリスティックな視点を採用する/② 価値に注力する/③ プロセスと成果物に品質を組み込む/④ 説明責任を果たせるリーダーとなる/⑤ すべてのプロジェクト領域に持続可能性を統合する/⑥ 権限付与された文化を構築する。
これら6つは、先見性・当事者意識・価値主導という3つの次元にまとめられます。なかでも、本稿のテーマに直結するのが、④と⑥からなる「当事者意識」の次元。第8版は、こう明言しています。
リーダーシップとは単に意思決定を行うことにとどまらず、説明責任と協働を重視する文化を育むものである。……共有された当事者意識とコミットメントを通じてプロジェクトの成功を牽引する、強固で自律的なチームの育成を支援する。
つまり、「PMの仕事は、人を統制することではなく、自律的なチームを育てることだ」と、世界標準が公式に言い切った。私が現場で掴んだ手応えと、PMBOKの転換は、同じ一点を指しています。
反発する人こそ、真っ先に巻き込む
では、自律的なチームをつくるソースとして、私が実際にやっていることは何か。一つ、これだけは伝えたい“逆説”があります。プロジェクトで反発してくる人こそ、真っ先に巻き込む——です。
手がかりにしているのが、心理学者ロバート・プルチックの「感情の輪」です。プルチックは、隣り合う感情が組み合わさって新たな感情が生まれると考えました。そのなかに、こんな組み合わせがあります。
怒り + 期待 = 攻撃性(建設的な反発)
ここが核心です。反発の裏側には、たいてい「期待」がある。「本当はもっと良くなるはずだ」という期待があるからこそ、人は声を荒げてでも異を唱える。無関心な人は、反発すらしません。だから、建設的に反発してくる人は、実はそのプロジェクトをいちばん本気で考えてくれている人なのです。
私は、こうした人を抑え込んだり遠ざけたりせず、真っ先に懐に入れます。その意見にきちんと向き合い、できる対応をする。すると不思議なもので、反発していた人ほど、やがて誰よりも強いファンになり、プロジェクトの推進力に変わっていく。期待を受け止めてもらえた、と感じるからでしょう。反発は、巻き込むべきエネルギーなのです。
AI時代だからこそ、PMは「ソース」になる
この話は、AI時代にいっそう重みを増します。進捗表の更新、WBSの作成、報告書づくり——いわゆる「管理」業務の多くは、これから生成AIが肩代わりしていくからです。
そうなったとき、「管理者」としてのPMの価値は、急速に薄れていきます。実行や管理のスキルは、時間とツールが解決してしまう差にすぎない(→ 生成AI成熟時代には、必ず新人の力が必要になる)。
では、最後に残るものは何か。それは、人の心に火をつける「熱量」、人が動き出す「場」をつくる力、そして反発すら味方に変えて「人を巻き込む」力です。AIには持てない、ソースだけが担える役割。AI時代のPMは、管理者ではなく、ますます「ソース」へと近づいていきます。
だから私は、熱を絶やさない
PMが熱量のソースとなり、クリエイティブフィールドをつくる。人が自律的に動き出し、反発していた人さえ巻き込まれていく。これはそのまま、私が掲げる「やる気100%な開発者集団」を、プロジェクトという現場で起こすための作法です。
能力の高いメンバーを集めることでも、緻密な計画を引くことでもない。出発点は、いつもPM自身が、本気で熱を放っているか。新人の頃に見た、あの「気概のある現場」の温度を、私は自分の手でつくり続けたい。だから私は——どんな状況でも、熱を絶やしません。
伊達 渡