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生成AI成熟時代には、必ず新人の力が必要になる

伊達 渡伊達 渡

ベテランにはたどり着けない突飛なアイデアを持った新人が、重宝される時代が来る——最近、そんな予感がある。まだうまく言葉になっていないけれど、たぶん今書いておかないと、この感覚は次の常識に飲み込まれて消えてしまう。だから書いておきたい。

「成熟」とは、安定のことだった

CMMI(能力成熟度モデル)という考え方がある。組織のプロセスがどれだけ成熟しているかを段階で測る、もともとはソフトウェア開発の世界の物差しだ。

レベル1は属人化した状態。「あの人がいるから回っている」「今回はうまくいったけど理由はわからない」という世界だ。レベル2になると、プロジェクト単位で計画・進捗・品質・リスクを管理できるようになる。レベル3では、組織として標準プロセスを持ち、案件ごとにそれをテーラリング(調整)して使う。

ここで「成熟」として評価されているのは、再現性・予測可能性・標準化・安定だ。バラつきをなくし、誰がやっても同じ結果になる状態へ近づくこと。これが「成熟」とされてきた。

この物差しなら、強いのは当然ベテランになる。経験のぶんだけ再現性が高く、予測ができ、安定して成果を出せるからだ。

生成AIも、今はこの構図の中にいる

そして生成AIも、今はまさにこの構図の中にある。

プロンプトの設計、パラメータの調整、出力の見極め、どのモデルにどう投げるか。生成AIを「使いこなすスキル」はまだ発展途上で、ここでも実行力が高く、分析力の強いベテランが優遇されている。

組織で見ても同じだ。今は、営業がChatGPT、開発がClaude、品質保証がCopilotと、各部署がてんでに使っている段階。やがてここに、利用方針やプロンプトの型、ガバナンス、教育体系が整っていく。AIの世界でも、属人的な活用から組織的な標準化へ——という同じ階段をのぼろうとしている。

今は、たしかに「使いこなせる人」が強い。

でも、ここからが本題だ。

実行力は、時間が解決してしまう差

この手のスキルは、いずれコモディティになる。ノウハウが溜まり、型ができ、ツールのほうが賢くなる。そうなれば、生成AIを使いこなす力は、新人でも普通に身につけられるようになる。

そもそも「新入社員は実行力が低い」という言い方自体が、少し不正確だと思っている。低いのは実行力ではなく、実行の“再現性”のほうだ。

実行力を分解すると、いくつもの要素が混ざっている。「とりあえず動き出す力」「問題を乗り越える力」「最後までやり切る力」「組織を動かす力」。このうち、動き出す力はむしろ新人のほうが高いことも多い。弱いのは、根回しや社内調整といった「組織を動かす力」のほうだ。

そして、その組織を動かす力ですら、型化され、ノウハウとして共有され、いずれAIに支援される。実行にまつわる差は、時間が少しずつならしていく。実行力は、いずれ誰のものでもなくなる。

では、最後に人間へ残るものは何か。

残るのは、「気づき」と「違和感」

私は、「気づき」と「違和感」だと思っている。

「これ、本当に必要ですか?」「なぜこのやり方なんですか?」——前提そのものを揺さぶる問い。これはAIには持ちにくいし、ノウハウとして溜めることも難しい。誰かの正解を再現する力ではなく、正解の枠組みそのものを疑う力だからだ。

ここで大事なのは、問う力と、実行する力は、別の能力だということ。

たとえば新人は、「この会議、本当に必要なんですか?」と問うことはできる。でも「会議体をどう変えるか」までは設計できない。逆にベテランは、会議を変える力はある。でも、そもそも疑わない。長くそこにいるほど、当たり前を当たり前として受け入れてしまう。

だから、AI時代に価値が生まれる順番は、三段階になる。

昔は「知っている人 → 実行できる人」で価値が決まった。これからは、「気づく人 → 問いを立てる人 → 実行できる人」になる。最初の二段、気づくと問うが、いちばん人間に残る部分だ。

違和感は、新人のほうが強い

そして面白いのは、この力はベテランの専売特許ではないということだ。

むしろ、固定観念から自由な新人のほうが発揮しやすい。組織に染まっていないからこそ、当たり前を当たり前と思わない。「なぜこの申請を3回も回すんですか?」と聞ける。ベテランは「昔からそうだから」と答える。その瞬間、業務を変えるのに必要な視点を持っているのは、明らかに新人のほうだ。

新人が強いのは、能力が高いからではない。まだ組織に同化していないからだ。

組織学習論には、既存の知を使いこなす「活用(Exploitation)」と、新しい知を見つけにいく「探索(Exploration)」という対がある(James March の有名な議論だ)。ベテランは活用が強く、新人は探索が強い。

そして生成AIもまた、探索の側にいる。膨大な可能性から、思いもよらない組み合わせを引っ張ってくる。「AIって新人に似ている」という感覚は、たぶん本質を突いている。どちらも、組織の前提の外側から発想できる存在なのだ。

いちばん低く見られてきたものに、宝がある

ここまで来ると、CMMIのレベル1を、もう一度読み直したくなる。

レベル1は「予測不能」として、いちばん低く評価されてきた。バラついていて、再現性がなくて、未熟な状態。早く脱け出すべき段階、とされてきた。

でも、問いの観点で見ると、レベル1には多様性があり、違和感があり、まだ均(なら)されていない新しい視点がある。標準化される前の、ざらついた手触りがある。混沌から秩序へ、という一方向の階段ではなく、探索と活用を行き来するバランスとして成熟をとらえ直すと、レベル1は「劣ったゴール手前」ではなく、探索の源泉に見えてくる。

だから、今書いておきたい

従来、成熟とは「安定」のことだった。でも生成AI時代に効いてくるのは、「安定 × 探索」のバランスのほうだ。

実行力がコモディティになり、最後に残るのが違和感だとしたら——評価軸はいずれ反転する。生成AIが成熟しきったその先で、組織が本当に必要とするのは、たぶん「使いこなせる人」ではない。当たり前を疑い、誰も気づかなかった違和感を持ち込める人——その役回りに、いちばん近い場所にいるのが新人だ。

ベテランにはたどり着けない突飛なアイデアが、価値の中心に近づいていく。生成AIが成熟する時代には、必ず新人の力が必要になる。 私は、そう思っている。

その入れ替わりは、たぶんもう静かに始まっている。だから、まだ常識が固まりきらない今のうちに、問い直しておきたい。

「あなたの組織は、何を“成熟”と呼んでいますか?」と。
伊達 渡
ともフロー研究所 所長
伊達 渡

製造業で20年以上、開発からプロセス改善・PLM導入・業務DXを推進してきた、研究する実務家。PMI関西ブランチ 運営委員会 代表。

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