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ワークショップ設計

なぜ私のワークショップは「体験談」から始まるのか

伊達 渡伊達 渡

「いい話を聞いたのに、結局なにも変わらなかった」。

そんな経験はないでしょうか。実は、人が本当に変わるには、知識とはまったく別の入り口が要ります。私がワークショップや講演で「体験談」を大切にする理由を書きます。

私が「体験談」にたどり着いた理由

設計のリーダーになったとき、私は「リーダーとはどうあるべきか」を学びたくて、とにかくあらゆる講演を聞きまくった時期があります。1年で、100人以上。それも、ソフトウェアの話に限りません。清掃のプロ、郵便局員、ボランティア活動をする人、お坊さん、大学の教授——分野もバラバラの、一流と呼ばれる人たちの話を、片っ端から聞きに行きました。

そうして100を超える話を浴びるうちに、はっきり見えてきたことがあります。心に深く刺さる講演と、右から左へ抜けていく講演には、決定的な違いがあるということです。

刺さる話には、共通点がありました。それは——語り手自身の経験、とりわけ「失敗体験から得た学び」が言葉に入っていること。立派な正論でも、きれいにまとまった知識でもない。その人が実際につまずき、痛い目を見て、そこから掴んだもの。それだけが、聞き手の心を動かしていたのです。

この発見以来、私は人前で話すとき、必ず自分の経験を語るようにしています。とくに、失敗から得た学びは、隠さずに話す。それが、相手の中に何かを起こす一番の近道だと知っているからです。

「知る」「できる」「している」の間にある、深い谷

学びには、3つの段階があります。「知る」「できる」「している」

多くの人は「知る」で止まります。本を読んだ、研修を受けた、いい話を聞いた——でも、現場では何も変わらない。「知っている」と「できる」の間、そして「できる」と「日常的にしている」の間には、見た目以上に深い谷があります。私がワークショップで本当に超えたいのは、この谷です。

なぜ「本」では人は動かないのか

知識を増やすだけなら、本を読めば十分なはずです。でも、本では人はなかなか動きません。理由はシンプルで、本には「いいこと」と「成功体験」しか書かれていないからです。

きれいに整理された成功談は、たしかに勉強にはなる。けれど、どこか他人事で、「自分もやってみよう」という衝動までは生まれにくい。そこに欠けているのは、失敗からくる生の声です。

人が動く順番——体験談から「している」へ

私が見てきた「人が本当に変わる」プロセスは、いつもこの順番でした。

体験談(失敗からくる生の声)→ 脳が動く(衝動)→ 行動する → 失敗を繰り返す → 血肉になる →「している」

誰かの生々しい失敗談を聞くと、不思議と心が動く。「わかる」「自分もやってみたい」という衝動が生まれる。その衝動が行動を生み、行動は当然うまくいかず、失敗を繰り返す。でも、その反復こそが知識を血肉に変え、ようやく「している」状態にたどり着くのです。

だから私は、成功体験よりも失敗体験こそが人を成長させると考えています。予習して身構えるより、まずやってみる。そして、反復する。

だからこそ、私は「ワークショップ」にこだわる

私のワークショップの土台はアクティブラーニング——聞くだけでなく、手と口と体を動かして学ぶ設計です。

ここで拠りどころにしているのが、ラーニングピラミッドという考え方。学び方によって知識の定着率は大きく変わり、一方的に「聞く」だけの講義形式はもっとも低いとされます。逆に、自分で手を動かし、話し合い、人に教える——そんな能動的に参加する学び方ほど、定着率が高いとされています。だから私は、いちばん定着する学び方を設計の中心に据えます。たとえ形式が講演であっても、必ず「考えさせる時間」をつくる。聞くだけの時間にはしません。

そして、その場の入り口には、きれいな理論ではなく体験談を置きます。さきほどの「失敗体験が刺さる」を、そのまま設計に落とし込んでいるのです。

学びの敵は、「恥」と「勘違い」

大人の学びには、子どもとは違う独特の壁があります。私はそれを「恥」と「勘違い」だと捉えています。

「いまさら聞けない」という恥。「自分はもう分かっている」という勘違い。この二つが、大人を学びから遠ざけます。だから私のワークショップは、この二つに正面から向き合えるよう、設計しています。

ワークショップの本質は、4つのポイント

私は、ワークショップの本質を「気づかせる・語らせる・受け入れる・やってみる」の4つだと考えています。これらを、順番というより、場面ごとにちりばめながら設計していきます。

① 気づかせる——教えるのではなく、本人に気づいてもらう。私はここで、あえて多くの人が“勘違い”するであろう仕掛けを挟みます。さらっと進むと取り違えてしまうポイントを、わざと置く。すると「あれ、分かったつもりだった」と本人が気づく。学びの敵だった「勘違い」を逆手に取り、気づきのきっかけに変えるのです。

② 語らせる——体験を、自分の言葉にしてもらう。ワークショップで得た体験は、言語化して初めて自分のものになります。頭の中の感覚を言葉にする、その行為そのものが、学びを定着させます。

③ 受け入れる——人によって、見ている視点は違います。その違いを否定するのではなく、理解し、自分の中に取り込む。異なる視点が混ざり合うことで、一人では到達できない新しい気づきが生まれます。

④ やってみる——最後は、とにかくやってみる。体験こそが、すべての教育の礎だと、私は考えています。どれだけ気づき、語り、受け入れても、自分の手で試さなければ「している」には届かない。だから、必ず手を動かす時間をつくります。

「3つのゾーン」で、安全に背伸びさせる

この4つを機能させるには、ひとつ前提が要ります。恥をかいても大丈夫だ、と思える場であることです。

人が成長するのは、居心地のいい場所の外側です。私は学びの場を、コンフォートゾーン(安心)/ラーニングゾーン(成長)/パニックゾーン(混乱)の3つで捉えています。コンフォートゾーンにいるだけでは成長せず、いきなりパニックゾーンに放り込めば恐怖で固まる。その中間のラーニングゾーン——少しだけ背伸びが必要で、でも安全な場所——に参加者を導くこと。失敗しても受け入れられると感じられるからこそ、人は思い切って挑戦できるのです。

すべては、ひとつの「冒険のサイクル」につながっている

ここまで書いてきたことは、実はひとつの大きな流れの一部です。私はそれを、「冒険のサイクル」と呼んでいます。下敷きにあるのは、野中郁次郎さんが提唱した知識創造理論(SECIモデル)です。

人はまず、冒険に出て、経験を得る(内面化)。不安を乗り越えて一歩を踏み出し、反復するうちに、それが血肉となって「している」になる。すると今度は、語りたくてたまらなくなる。そして得たことを誰かに語る(共同化)。語り合ううちに、共感が生まれ、対話を通じて認識が広がり(表出化)、新しいアイデアが生まれる(連結化)。そのアイデアが、また次の冒険へと人を連れ出していく——。

このぐるぐると回り続けるサイクルこそが、人と知識を育てていくと、私は考えています。そして私のワークショップの「気づかせる・語らせる・受け入れる・やってみる」は、まさにこのサイクルを気持ちよく回し続けるための仕掛けなのです。

さらに大切なのは、この循環は個人の中だけで完結しないこと。一人の冒険談が誰かの心を動かし、対話を生み、やがて組織全体の知恵になっていく。個人 → チーム → 組織へと、学びが渦を巻いて広がっていきます。

私が掲げる「やる気100%な開発者集団」も、突き詰めればこのサイクルが回り続けている状態です。体験から学び、語り、受け入れ、また挑戦する。その小さな冒険の連鎖が、人と組織を動かしていく。だから私は、これからも「体験談」から始まる場を——人が安心して冒険に出られる場を——つくり続けます。

伊達 渡
ともフロー研究所 所長
伊達 渡

製造業で20年以上、開発からプロセス改善・PLM導入・業務DXを推進してきた、研究する実務家。PMI関西ブランチ 運営委員会 代表。

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